残念ながら2022年1月末をもって閉店されました。
代表銘菓「濤々」は、「鍵善良房」さんが受け継がれるとのことです。
私が小さい頃から変わらぬ店構えです。
銘菓の「濤々」や「しぐれ傘」はちょっとしたお使いの
手土産などに使わせていただいています。
明治36年からの歩みを店の随所に留める
川端通から二条通を東へ入ったところに店を構える「京華堂利保」は、1903年(明治36)創業の京菓子老舗。かつては祇園町にある建仁寺近くで商い、戦時中の強制疎開でここへ移った。
小屋根には御菓子司(おんかしつかさ)の看板を掲げている。御菓子司とは、茶席などで見られる上菓子をつくる和菓子店の証。宮中に納める禁裏御用の店も御菓子司を名乗る。
広い間口いっぱいに店名を白く染め抜く黒の水引暖簾を掛け、その店構えに老舗の風格がある。
店内には創業当初から使い続ける菓子箪笥が置かれ、天井からは包装用の紐が数本垂れ下がる。
菓子を包む時は、上からスルスルッと紐を手繰り寄せ手際よく掛ける。
おそらく何十年も変わっていない店内は一定の古色を帯びているものの、くたびれた感じが微塵もなく、むしろ京菓子をつくり続ける老舗が醸す静かな洗練が隅々にまで宿っている。
こし餡に大徳寺納豆をあわせた創意が印象深い風味に
代表銘菓「濤々」(とうとう)は、麩焼き煎餅2枚で大徳寺納豆入りこし餡を挟んでいる。この店で和菓子職人として約17年働く早川和宏さんは、餡に塩辛い大徳寺納豆を混ぜ入れた創意に感じ入る。
考案したのは当主の祖父にあたる2代目。茶席の菓子をまかされていた2代目は、茶道三千家のひとつ、武者小路千家十三世御家元有隣斎宗匠の助言を得ながら完成させた。
濤の字には大波の意味があるが、高松藩松平候は、茶席の釜の湯がたぎる音に濤の字をあて「濤々」と揮毫した。その扁額が、武者小路千家官休庵の利休堂に掛かり、菓銘も商品名の毛筆もそれに由来している。
茶人好みの「濤々」には、茶席の菓子ならでは工夫がある。「麩焼き煎餅を手で割った時に、粉が着物や畳にパラパラと散らないよう、餡にしっかり水分をもたせ、お煎餅が少ししっとりするようにしています」と早川さん。
「濤々」はある意味一点もので、表面にはすり蜜をつけた筆で早川さんらが一枚ずつ描く渦文様があしらわれている。頬張った時にはすり蜜の上品な甘さが口中に広がる。
「濤々」と同じように長く愛されているのは、口どけのいい羊羹をどら焼き風生地で挟んだ「しぐれ傘」。
和菓子の魅力は味はもちろんのこと、姿と菓銘にもあるが、「しぐれ傘」は15㎝くらいの円板を真上から見ると広げた傘に、楊枝で切り分けるとすぼめた姿に見立てている。
気の利いた菓子として一年を通して重宝されるが、梅雨時のおつかいものとしてもぜひ覚えておきたい。
菓子を包む包装紙には色とりどりの宝尽くし木版画
包装紙は、山吹色や鶯色、淡いピンクや丹塗りのような赤もある。
絵柄は願いをかなえる打ち出の小槌や、危険から身を守る隠れ傘や隠れ蓑などを描く縁起のいい宝尽くし木版画。
明るく華やかな刷り色を用意しているのは「2代目が華やかなものを好きだったようで、戦前からピンク色もあったと聞いています」と早川さんは語る。
「濤々」にはいつも爽やかな水色が選ばれるが、ほかの菓子は季節によって変わる。
お客の中にはこの包装紙を分けてください、と申し出る人もいるそうだ。
店そのものの趣、菓子の味。それに加え、今度はどんな包装紙だろうか、そんな楽しみもある。
包まれた姿の美しさを堪能してから銘菓を味わいたい。
(構成・文/古都真由美 写真/からふね屋 古都真由美)
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