仁王門通を毎日通っていても、見過ごしそうな小さなお店ですが
女性オーナーは常に目標に向かって自分の力で前に進む
若いながらもすごくしっかりとした方でした。
自分らしい生き方を求めて好きなお菓子づくりで独立
仁王門通に面したわずか10坪のスペースで、クッキーと焼き菓子の店「72Kitchen」を始めた市村菜月さん。
オープンしたのは2016年。小さくてかわいいお店の扉は、木曜から日曜の4日間だけ開いている。
店名は自身の名前〝なつき〟の頭の2文字を数字にした72と、子供の頃からずっと好きな場所をくっつけたもの。
実家には母親が買い揃えたクッキーやケーキの型などお菓子道具があったといい、「それを使って一人でよくお菓子をつくっていましたね。台所は今でも大好きな場所です」。
やりたいことはやる。そのための努力は惜しまない。
市村さんは昔も今もその気持ちが強い。例えば10代ではじめたダンスは、アルバイトで月謝を稼ぎながら20代半ばまで続け、プロの水準にまで磨いている。
「72Kitchen」を始めたのもそうだ。アルバイトをきっかけにカフェに関心を持ち、いつしかカフェより時間的自由度の高い焼き菓子店開業という目標を立て、実現に向けた準備を着々と進めた。
仕事に自由度を求めたのは「自分らしい生き方をしたかったからです」と市村さん。
「年齢や家族構成に関わらず、女性の働き方にはフリーランスや自営業という選択肢があっていいと思いました。それを体現したくて、自分の店を持つことにしました」。
その決断には2018年に天寿を全うした愛犬・福゜くんの存在も影響している。福゜くんは市村さんと一緒に〝出勤〟し、接客を担当した。
食感をイメージしながらグラム単位で独自に配合
お菓子の製法はすべて独学で、感覚を頼りに材料の足し算引き算をしている。焼き菓子の生地はバター使用と不使用の2種。一番こだわっているのは頬張った瞬間ザクザクッ、ジョリジョリッと響く食感だ。
市村さんは「食感の好みで選ばれる方もいらっしゃいますし、一緒に飲むドリンクや季節、体調に合わせて選ぶ方もいらっしゃいます」と話す。
バターと卵不使用の豆乳スコーンは、しっとり焼き上げている。
オープンから3日間は店に泊まりこんで焼き続けていたという市村さん。
当初10種程だった商品の数も今では増え、生姜を生地に練り込んだ「Ginger Biscotti」(190円)やオーガニックメープルシロップを使った「maple cookie」(340円)は存在感のある食感を、豆乳スコーン「plain」(220円)はザラメを使った表面がザクザクしている。
店売りと通販を両立させながらファンの裾野を拡大
2年がかりでようやく巡り合った仁王門の店には、食事代わりにもなるスコーンを毎週買いに来る近隣住民もいるそうだ。
最近はSNSからの注文も増えている。
「オープン当初から本当にたくさんの方に支えられています。お店を知ってもらうきっかけになるイベントや百貨店への出店も人からのご紹介でした。うちのお店にお菓子を卸して欲しいとおっしゃってくださる方もいて、とても感謝しています」。
現在、力を注いでいる通販は、一度イベントで市村さんのお菓子を買った府外に住むインフルエンサーが、Instagramに記事をアップしたのを機に注文数がアップ。季節の商品を8種詰め合わせた「スコーン便」や「おやつ便」の注文はInstagramで受け付けている。
今後は店売りと通販のバランスをとりながら、より自分らしい働き方をしていきたいと話す市村さん。仁王門に店を構える同世代のオーナーらとイベントも時々開催。地域に根差したお店としての歩みも進行中だ。
(構成・文/古都真由美 写真/からふね屋 古都真由美)
住所:京都市左京区仁王門通新東洞院東入新東洞院町283 仁王門荘1階
電話:090-3847-6172(代表)
URL:https://www.instagram.com/chimchim72/
営業時間:11時~18時
定休日:月火水+不定休
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