ひょんなことから見つけたご近所にある現代美術専門のギャラリー。
自らもアーティストの道を志したことのあるオーナーが
若いアーティストを親代わりのように見守っています。
古い一軒家を買い受けギャラリーに。2階にはアート本と過ごせるカフェも
1999年にJR芦屋駅近くではじめた「芦屋画廊」を閉め、2016年の7月から嫁ぎ先の京都で、夫とともに新たな一歩を踏み出したギャラリストの北川祥子さん。
東大路通から二筋西の新間之町通という、地元の人でもすぐに場所が思い浮かばない通りの、さらに路地の奥という立地は少しわかりづらい。
それでも北川さんは「(この物件は)ひと目で気に入ったんですよ。だってここは最後の秘境ですから」と、仁王門の雰囲気を巧みに表現して微笑む。
以前は外国人が住んでいた古い2階建てを、賃貸ではなく、はじめから買い受けるつもりでいたのは「好きに使えて、思うような空間をつくりたかったからなんです」と北川さん。
ギャラリストは、自分たちが見出した作家を、作家と二人三脚で世に売り出していく仕事。ゆえにお披露目の場であるギャラリーは、作家や作品のもつ世界観を最大限に引き出す空間でなければならないと考えていた。
2階は床の一部を取り払い、気持ちのいい吹き抜け空間をつくった。
そこには芦屋時代にはなかったカフェが設けられ、北川さん夫婦の蔵書と一緒にコーヒーを飲むこともできる。
作家の気持ちがわかるからこそ育てる道を選んだ
北川さん夫婦は、芦屋画廊から世界へ羽ばたいていった作家を今でもささえ、彼らが活動する上での親でありたいと考えている。
確かな信頼関係が成り立っているのは、ことあるごとに作家から連絡が入ることでもわかる。どんな些細な相談にも寄り添う包容力は、北川さん自身がギャラリストを目指した背景と関係している。
学校を卒業してから京都で染色を学んだ北川さんは、溢れる創作意欲を吐きだすかのようにアメリカへ飛んでいる。
そこで制作に励み、自身のなかでは作家としての将来も思い描いていたが、縁あって結婚してからは、良き妻、良き母としての日々を過ごすことになった。
そうこうしているうちに、はたと気づけば48歳。
「そのときに思ったんです。あれ、私はこのまま歳をとっていくだけでいいのかなと」。
かつて熱中した染色を再開するのではなく、ギャラリストの道を選んだのは「彼らの気持ちが誰よりもわかるからなんです」。
創作上の懊悩や、活躍の場を広げられないもどかしさ、苦しさは、かつて自身が抱えていたもの。「だったら彼らに寄り添い、その助けになるような存在になろうと思いました」。
決断したときの年齢があと15年若かったら、「自分を売り出すことを考えたかもしれないですね」と茶目っ気たっぷりに微笑む北川さん。
幼稚園から高校までミッション系スクールで学び、校歌にあった「人の為、親の為、また夫(つま)の為、子の為さては世の為に」という言葉の意味を、今あらためて噛みしめている。
展覧会の会期中にはギャラリー内でお茶会も開催
内外のアートフェアに出展し、ゆかりのアーティストの海外の展覧会があるとそこにも出向く北川さんは、日本人ももっとアートに親しんでほしいと願っている。
芸術が小さな個人に与える影響は、はかり知れない。
作品を前に涙ぐむ人、気に入った絵を1年半がかりで資金を貯めて手に入れる人。
一枚の絵が人の何かを変える、そんなことは珍しくない。
作品の紹介文にあたるキャプションはあえて用意していない。「先入観でみてほしくないんです。作品と向き合って、そこから自分が何を感じるのか。それが大事なんだと思っています」。
展覧会は不定期で開催し、仁王門へ移ってからは展覧会会期中に必ずお茶会を催している。ギャラリー内に一日限りの茶室を設け、茶人が点てる一服の茶を、作品を前に喫する。
さりげなく贅沢な時間を提供できるのは京都だからこそ。
展覧会の開催日時はfacebookで告知している。
(構成・文・写真/古都真由美)
住所:京都市左京区新間之町通二条下ル頭町357番地8
電話:075-754-8556
URL:https://www.ashiya-garo.com/
facebook: https://www.facebook.com/ASHIYAGAROkyoto/
営業時間:12時~19時
定休日:月曜、火曜(不定期で休廊日があります)
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