これまで仁王門界隈にはありそうでなかった
本格的な手づくりのパン屋さんです。
お話をお聞きして意外な接点があったのも京都ならではです。
長年の勤め人生活からパン屋のオーナーシェフへ
2019年6月26日、仁王門にまた新しい仲間が加わった。オーナーの山田尚生さんは、勤めに出ていた生活に区切りをつけ、「人生は一度きり。だったら環境を変えて、今度は楽しみながら働こうと思ったんです」と、小さな町家を改装してパン屋をオープンした。
もともとパンが好きで、パンづくりにも興味があった。それを仕事にしようと思ったのは、「経営的な視点も正直ありましたね」と本音をのぞかせる。
出店する以上はもちろん成功させたい。「飲食とはまったく違う分野で働いてきた私が、今から参入して採算がとれる業態は何だろうかと真剣に考えました」。
それを考え抜いた結果、見えてきたのがパン屋のオーナーシェフという道だった。楽しみながら働くという気持ちに寄り沿いつつ、経済のことも考えた大人の選択だ。
専門学校で基本的な技術を習得し、現場経験も経て、いよいよオープンとなった時に頭をよぎったのは、売りとなる商品のことだった。
京都はパンの消費量が常に上位にランクインする町。そこへ今から打って出るのだから、関心を持たれるような特徴がどうしても欲しい。
逡巡する山田さんに、プライベートで親交のある仲間たちが米粉パンをすすめてくれた。「米粉パンは私も好きだったので、よし、これでいこうと決めました」。
難しいからやりがいがある。生地のおいしいパンに情熱を注ぐ
専門学校で教わらなかった米粉パンは、「つくり出してから、はじめてわかった難しさがある」と山田さん。もっとも難しいのは粉と水分の量。「小麦粉でつくる場合は、一次発酵、二次発酵の段階である程度修正はできるんですが、米粉の場合ははじめにきっちり量らなければならない。さらに、その日の気温や湿度によっても微調整が必要になってくるので、本当に難しいですね。でもその分、やりがいがあるというか、つくっていて楽しいですね」。
店頭に並んでいるのは、いずれも米粉でつくったパンだ。パンの種類は食パンとコッペパンのみ。山型と角食の食パン2種、「あんホイップ」や「白身魚フライ」などさまざまな具を挟んだコッペパン10種を販売している。
食感はそれぞれ異なるが、山田さんは「どれも生地の味を楽しんでほしい」と語る。
朝4時から仕事をはじめ、理想とする米粉パンづくりに毎日真剣に向き合う日々だが、その情熱から生まれるパンは、じわじわと評判になりつつある。
はじめに常連客となったのは近隣の高齢者たちだ。もちもちとやわらかい食パンが人気を呼んだ。最近は、ある料理店のシェフがたびたび食パンを買いに訪れるようになり、味への自信にもつながった。何よりうれしいのはリピーターの存在だ。
「私のつくったパンを何度も買いに来られるお客様がいらっしゃることが、こんなにうれしいは思わなかった。これは想定外の喜びでしたね」。
地域の人と交流しながら仁王門での日々を充実させていく
山田さんは京都市内で生まれ育ったが、店をオープンするまでは仁王門界隈に馴染がなかったそうだ。「京阪三条駅にはしょっちゅう来ていたのに、ここにこんな“空白地帯”があったなんて、ちょっと驚きましたね」。
思い描いていた出店地になかなか巡り会えず、何軒も不動産屋を巡り、インターネットでも検索していた山田さんは、今の物件を見た時に「バランスがいい」と好印象を抱いた。何年も探してようやく巡り合えた物件だ。
「一番こだわっていた町家であったことと、周囲がほどよく静かで、昔ながらの町並みが残っている点を気に入りました。コンパクトなサイズ感も私には合っていました。ここなら地域の人に愛されるパン屋をはじめられると思いました」。
地域住民との交流はとても大切にしている。行事にも積極的に協力し、今後はイベントも開催したいと考えている。
店の一角にはイートイン用のバーカウンターがあるが、将来的にはここをパンとワインを楽しむスペースにしようと思い描いている。
オープンしてまだ数か月だが、やりたいことは頭の中にたくさんある。それを一つひとつ形にしながら、山田さんは第2の人生を充実させていくのだろう。
(構成・文/古都真由美 写真/からふね屋 古都真由美)
住所:京都市左京区仁王門通左京区仁王門通り新麩屋町西入大菊町106
電話:075-285-3073
FBページ:https://www.facebook.com/boulangerieoshow/
営業時間:7時~17時(なくなり次第終了)
定休日:月曜、火曜
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