東京の古書店で勤めていたこともあるオーナーが
自らの目を通しセレクトした絵本と器を見ていると
どれも作り手さんへの愛情が感じられます。
身近にある絵本と器を美術の入口に
仁王門通から南へ伸びる新丸太町通は、わずか120m程の通り沿いに新旧の住宅がひしめき合っている。どこの街にもあるような住宅街に、京都の匂いをのせるのは格子戸のはまる京町家。東京から移住し、2012年5月に絵本と器の店「nowaki」をオープンした菊池美奈さんも、その佇まいと裏通りの静けさをひと目で気に入った。
美術館学芸員の資格も持つ菊池さんは、東京の古書店で働いていた頃から「いつかは自分の店を」と思い描いていた。
絵本と器の店と決めたのは、「どちらも暮らしの中で必要なものだから」。
絵本は必ず一度読み、器は実際使ってみていいと思ったものだけ扱っている。
絵本にひかれるようになったのは大学時代。
「(茨木県水戸市の)水戸芸術館でロシアの絵本の展示を見て、そのおもしろさにあらためて気づかされたんです。絵本は美術の入口になると思いました。私の店で出合う絵本や器が、日常に美術や美しいものを取り入れるきっかけになると嬉しいですね」。
展覧会は自らの企画展のみ、絵本ワークショップも開催
小さな引き戸を滑らせ、靴を脱いであがる店内には、絵本と器のほかに、オリジナル雑貨なども並んでいる。型染め作家katakataさんの絵柄を用いた印判手小皿や、画家の牧野伊三夫さんと一緒につくったオリジナル手ぬぐいなど、ユーモアや明るさに溢れたものは見ていて楽しい。このちょっとした心の動きこそが、作家の手を介したものと触れ合う醍醐味なのだろう。
器は店を始める前から窯元へ足を運んでいた、東京や九州の作家のものが中心。関西ではここでしか扱いのないものもある。
菊池さんは、それら一つひとつを丁寧に説明する。自分も一度生活に取り入れ、本当にいいと思った本音が言葉の端々に滲んでいる。
店の奥には自らが企画する展覧会を開くギャラリースペースがある。
取材当日は、夫で絵本編集者の筒井大介さんが編纂し、今年3月に出版された『あの日からの或る日の絵とことば』(筒井大介編 創元社刊)の出版記念展覧会が開催されていた(~4月1日迄)。
フリーの絵本編集者である大介さんは、プロを目指す人を対象にした絵本ワークショップもここで開いている。
都会と地方の両方のよさを実感する毎日
菊池さんは暮らして初めてわかった京都のよさがあると話す。「挨拶は交わしますが、私たち〝よそさん〟のことは程好くほっといてくれるんです。かといって、ほったらかしでもなく、わからないことを尋ねるとちゃんと教えてくれるので、みなさんとても親切です」。
また、店をオープン後、なかなか認知されずに苦戦していた時は、行きつけの喫茶店やカフェのオーナーがお客を紹介するなどして、手を差し伸べてくれた。「私のような移住者への応援の仕方が、街として機能していると思いました。京都は都会的な面と、人とつながりのある地方のよさの両方がありますね」。
市内中心部に自然が多いことも住んでから気づいたそうだ。「桜は街のあちこちに咲いているし、歩いて見るだけで満足できます。柳の新芽がとてもきれいなことも、住んで初めて知りました」。
オープンから7年経った今も日々出会いや発見があるそうだ。今後は「京都で店を出したからこそ出会えた作家さんの展覧会も開催したいですね」と菊池さん。これまでの軌道に沿いながら、これからも暮らしとアートをつなぐ拠点として活動していく。
(構成・文/古都真由美 写真/からふね屋 古都真由美)
住所:京都市左京区新丸太町通仁王門下ル新丸太町49-1
電話:075-285-1595
URL:https://nowaki3jyo.exblog.jp/
営業時間:11時~19時
定休日:不定休 ※営業日はツイッター(twitter@nowaki32)で告知
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