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京都仁王門上ル下ル

大手に負けない知恵と工夫で町の金属販売店を継承 【角井銅商店】


「個人店の強みをいかし、美術関係のお客さんも来られています。
外からはのんびりとした、昔ながらの金属販売店に見えますが、
意外にも実際には目線は常に世界を向いていました」。

柔軟な姿勢で時代に対応する金属販売店

1927年(昭和2)から金属販売店を営む「角井銅商店」。
創業当初は仁王門通東大路(東山仁王門)から西へすぐの場所で商い、それから7年経った1932年(昭和7)に、東大路通に面する現在地に移転している。
角井銅商店外観
色あせた店舗庇が垂れる入口引き戸は、いつでも開けっ放し。誰でも気軽に入れる作業場兼店舗の中央には金属裁断機が置かれ、武骨な存在感を示している。
2代目の角井賢一さんは「初めて裁断機を置いたのは、確か東京オリンピックの年でしたね」と記憶をたどる。

当時、角井さんはまだ20代。家業の将来を見据え、大枚をはたく機械の購入を、創業者で父の清次郎さんに働きかけている。

角井銅商店 金属裁断機
金属裁断機

清次郎さんは京都市内の北部、鞍馬で生まれている。小学4年の時に突然父を失い、わずか10歳で京都市内の金属販売店に奉公に出ている。
それから18年間、販売員として真面目に働いた清次郎さんは28歳で独立。「角井商店」の名で店を出した。

その屋号に後から銅の一字を加えたのは、角井さんだ。父のもとで仕事を覚えた角井さんは、店の主要取扱品目が銅であることを、通りを行き交うすべての人に宣伝しようと、小屋根の上の看板にもひと工夫。
白い塗料で書いた店名は、銅の一字だけを赤くした。
角井銅商店 看板
90年以上続く店に現在訪れるのは、主に建築関係の仕事をする人々だ。銅だけでなく、真鍮やステンレス、アルミなども扱い、希望の寸法に、その場ですぐ裁断するスピーディーな対応が喜ばれている。
角井銅商店 カットされた銅板
もっとも、これは角井さんが意識的に行っている販売戦略のひとつで「この商売は昔と違って今は大手が中心ですから、そこと同じことをしていてもあきません。
大手がやらないことをやる。例え小ロットでも、お客さんが希望するサイズにすぐ裁断するのは、うちのような規模でしか出来ないことやと思っているんです」と話す。

金属裁断機は、現在4代目を数える。安全装置も何もなかったかつてのことを思えば、随分便利で使いやすくなったそうだが、微妙な調整が必要な場面では、今でも長年の経験が何よりの助けになるという。
角井銅商店 カットされた銅板

作家や学生の創作活動をささえる材料屋としての存在意義

10年、20年と長きにわたって訪れる客の中には、造形作家のヤマゲンイワオさんをはじめとした、作品づくりをする人の姿もある。取材時にもふらりと一人の男性が訪れ「真鍮1.5、300」と、1.5ミリ厚の真鍮を300gという注文を、まるで暗号のような短い言葉で伝えていた。

造形作家ヤマゲンイワオ 銅版画と銅版
銅版画と銅版 ©ヤマゲンイワオ
造形作家ヤマゲンイワオの銅版アップ
銅版画の銅版(アップ) ©ヤマゲンイワオ

彼らとの縁が生じた端緒は、約40年前にさかのぼる。「ある時、美術の先生がおみえになって、なんでもカルチャー教室で銅版画を教えるとかで、銅板を買って帰られたんです。
当時の私は銅版画を知らなかったので、銅なんかで作品をつくるのかと不思議に思ったものですよ」。
その教室の受講生なのか、その日を境に20枚、30枚と一度にまとまった数の銅板が売れるようになった。
角井銅商店 在庫される金属の端材
専門店としての評判が定着すると、今度は芸術系の学校に通う生徒たちが買い求めるようになった。
今では、京都市立芸術大学や京都精華大学、京都造形芸術大学、嵯峨美術大学などで制作に励む学生たちが、先輩たちの後に続いている。

仁王門の一隅から世界情勢にアンテナを張って

常連客の存在を有難く感じてはいるものの、経営面では「もうちょっと、どうにかならんとね」と歯がゆさを滲ませる。しかし、そこに焦りがないのは、父からこう教わっているからだ。

「銅相場の上がり下がりは10年ごとにある。その中で山が5つあったら、3つ捕まえたらええ」。
その3つを捕まえるために、御年80歳を迎えた今でも、目線は常に世界に向いている。

「もう引退してもいい年齢ですから、早く辞めたいと思っているんですよ」と謙遜しつつも、相場師的感覚は衰えることがない。
大勝負にこそ出ないが、どんな金属をどれだけ仕入れるか、また客がどんなものを求めているのか、頭の中は常に忙しい。
角井銅商店 角井さん
注文は、基本的に電話で請け、電子メールでの対応は息子さんに任せている。
「メールよりも電話の方が早い。意思疎通は電話が一番です。初めての方でも、声の感じでどんなお客さんかわかりますからね」。

銅相場の値動き、数値化できない対人感覚を身につけている金属販売のプロは、きっと生涯現役を貫くに違いない。
角井銅商店 角井さん
[文・構成/古都真由美 写真/からふね屋・古都真由美]

角井銅商店
京都市左京区東大路通仁王門下る東門前町526
電話:075-771-2551
営業時間:9時~18時
定休日:日曜、祝日

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