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老舗京菓子司も信頼する製餡という商い 【山梨製餡】

山梨製餡 看板


「今の社長は私の小学校時代の先輩です。
今回、初めて餡作りの現場へうかがい、環境をととのえながら家業を守る姿勢に感銘を受け
京都の和菓子の品質がいかにして守られているのか、をお話いただき大変勉強になりました」。

和菓子文化の根づく京都で創業

日本の四季や折々の風物を掌にのる小さな芸術に昇華する京の和菓子。
そんな菓子に欠かせない餡作りが専業の「山梨製餡」は、1920年(大正9)に創業している。

東山三条を一筋上がった東に、白壁に格子戸の立派な町家を構え、「やまきち」の屋号を堂々染め抜く暖簾に、3代続く歴史を滲ませている。
山梨製餡 外観
生餡製造業の起こりは明治の頃だと、当主の山梨彰一氏は話す。「餡作りは、もともとお菓子屋さんの中の仕事だったんですが、これが結構手間のかかるものですから、東京、大阪、名古屋あたりで、専門の商いが始まりました。

祖父で初代の福一は、郷里の静岡を出て、名古屋で1、2年修業してから京都で店を始めています。
京都に決めたのは、名古屋に比べると和菓子の値段が高かったので、餡も高く売れると思ったからでしょう。
もしかしたら水が良かったことも決め手になったのかもしれません」。
山梨製餡 山梨社長
京都の地下には豊かな水脈が走り、専門家によると「京都水盆」と呼ぶ大きな水がめが横たわっているのだという。
井戸からくみ上げた水は、住民生活のみならず、これまでに多くの産業を支えてきた。餡作りもその例外ではなかったのだろう。
純度の高い水は、昔も今も山梨製餡になくてはならないものとなっている。
山梨製餡 製造工程
得意先へ納める餡は大きく分けて2つある。
ひとつは味付けを一切していない生餡。主に京菓子店に届け、それぞれの店が自分のところの味に仕上げ、上菓子などに用いている。
もうひとつは生餡に加糖するなど加工してから納め、土産菓子やパンなどにいかされている。

山梨製餡 製造工程 加工中の小豆
加工中の小豆
山梨製餡  加工前の生餡
加工前の生餡

京菓子店や生産者との厚い信頼関係があるから上質の餡作りが可能に

歴史ある京菓子店が、外部から餡を仕入れることを、訝しく思う向きもあるかもしれないが、それは京菓子店が、多くの人に確かな品質の菓子を安定的に届けたいと強く願っている証左でもある。

なぜなら、餡の材料となる小豆は農作物であるがゆえ、当然、豊作不作の年がある。
しかし今年は不作だからといって、いつものようなお菓子は作れませんでしたでは、商売が成り立たない。
ゆえにそこを専門家に任せ、ある意味菓子作りに集中できる環境をととのえているのだ。

一方、そこを担う山梨製餡の責任は大きい。
「ですから、私どもの工場の一角には備蓄庫があるんです。そこで1年先、2年先までまかなえる材料をストックしています」。
分量だけではない。上菓子で使われる岡山県産備中白小豆という収穫量の少ない品種も常に確保している。
「これは白餡を使う上菓子に必要なものですので、高価ですが必ず仕入れてご要望があればお届けしています」。
山梨製餡 備蓄されている小豆原料
そんな山梨製餡の仕事の根底を支えるのが小豆の生産者だ。「生産者との信頼関係はとても大切にしています。
気持ちよく仕事をしていただくために心がけているのは明朗会計。
また、毎年9月に北海道の十勝農業試験場へ出向いて、小豆の状況や品種について専門家と話しをしています」。
山梨製餡 白小豆
こういった姿勢を貫けるのは、得意先の和菓子店との確かな商いが成立しているからだ。
「京都のお得意様の中に、安いものを持ってこいと言われるところは一軒もありません。
ええもんを持ってこい。これが基本なんですよ」。

確かな取引はこんなところにも表れている。
例えば豊作の年に、競合企業が安い価格で小豆をセールスにきても、和菓子店は取り合わないのだという。
つまり価格で仕事相手を選ぶのではなく、いい時も悪い時もお互いを必要とし、信頼しあう関係性の中で菓子を作り続けているのだ。

清潔で機能的な工場を設立、店舗では気軽に購入できる餡を販売

店舗の北側には、3階建の大きな工場を構えている。
当主が本格的に家業に就いてから整備した工場は、オートメーション化された清潔な環境。
「つい最近は、天井近くにあるクレーンをステンレス製のものに新調しました。
食品を扱う仕事は異物混入を避けるために、あらゆる努力が求められますから、設備の見直しはこれからもずっと続けていくと思います」。

乾燥した小豆の状態から、生餡に至る工程は4時間程かかる。
小豆を茹で、すり潰し、濾してから皮をむき、小豆の中身だけを搾り取り、ようやくこし餡の生餡となる。
もっとも難しいのは「小豆の焚き加減や濾し方ですね」と山梨氏。
工程の大半は機械が担い、加糖をする際にも数字でしっかり管理している。
だが季節や品種による微調整が、時には必要になることもある。
そんな時には、経験に基づく勘が大いに役立つのだという。
山梨製餡 工場内
店舗の一角では、こし餡や粒餡など、一般の人が気軽に購入できる商品が並んでいる。

老舗の京菓子店も認める味を、家庭ではどんな風にいかせばいいのだろうか。
そう尋ねると、山梨氏はとっておきのレシピを2つ教えてくれた。ひとつめは水ようかんだ。
鍋を火にかけ、こし餡と寒天を溶かしたら、バット等に流し入れて冷やすだけの簡単レシピ。
ポイントは、火を止めてから1、2分待ち、やや粗熱をとること。
完全に粗熱をとってしまうと駄目なんですよ。そこがコツですね」とアドバイスをくれた。

もうひとつはおはぎだ。ごく一般的な米ともち米を一緒に炊いてから、すりこぎで軽く潰し適当な大きさに丸めておく。
それを購入したこし餡でくるむだけ。こちらも難なく出来そうだ。
山梨製餡 小売スペース
山梨製餡 小売スペース
そういえば、もうすぐ中秋の名月(9月24日)がやってくる。今年は山梨製餡のこし餡を使って、おはぎを準備してみてはいかがだろうか。
むろん和菓子店の味には及ばないが、家で菓子を作る時間も秋の一夜の思い出になるに違いない。
小豆は繊維質も豊富な健康食品。大陸では魔除けとして食べられたと聞くと、もっと日常的に親しんでもいいのかもしれない。
店へ訪れ、餡を知り尽くすプロにその方法を尋ねてみたい。
山梨製餡 山梨社長 のれんの前で

[文・構成/古都真由美 写真/中塚政裕(からふね屋)・古都真由美]

株式会社山梨製餡
京都市左京区孫橋通東大路東入南門前町538番地
電話:075-761-1146
URL:https://yamanashiseian.co.jp/
営業時間:9~16時
定休日:土曜、日曜、祝日

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