前回は、主に製紙つまり、紙の生産に関わる環境問題にスポットを当ててきました。
今回は、印刷インキ関わる環境問題について考えてみたいと思います。
紙以外の印刷材料でまず思い浮かぶのが、印刷インキです。
印刷物とは紙とインキから成り立っていると言っても過言ではありません。
というか紙にインキを載せたものが印刷物です。
印刷とは切っても切れない関係のインキですが、まずはどういうものかをみていきましょう。
印刷インキとは
印刷インキは大きく分けて「顔料」「ワニス」を主剤に、若干の添加物(補助剤)を加えた3つの要素から成り立っています。
これらの原料は、天然物から石油化学製品に至る多種多様な化学物質であり、用途適性に応じて使い分けられていて、「顔料」は色再現を、「ワニス」は顔料を分散し印刷素材に転移、固着させる働きを、添加物は乾燥性や流動性等いわゆる印刷適性や印刷効果を調整する機能があります。
また、印刷インキといっても印刷手法によっても製造方法や原料の材質は変わり、最終的に平版(オフセット)や凸版印刷用には高粘度状に、グラビアやフレキソ印刷用には低粘度の液状に、スクリーン印刷用にはその中間の中粘度状に仕上げます。
印刷インキにおける環境負荷とは
次に印刷インキにおける環境問題を見ていきたいのですが、ここでは一番馴染みのある平版(オフセット)印刷用の油性インキに絞って話を進めたいと思います。
前述の通り油性インキも「顔料」「ワニス」「添加物(補助剤)」から成り立っているのですが、更に以下のように内容物を分類することができます。
ワニス・・・・・樹脂・溶剤・乾性油
添加物(補助剤)・・・・・耐摩擦剤・ドライヤー・裏付き防止剤・その他
この中で特に環境に影響があるとされるのは以下のような問題です。
・ 溶剤として使われる鉱物油にVOC(揮発性有機溶剤)が含有されている
・ 樹脂内に環境ホルモンが含有されている
・ 鉱物油に重金属が含有されている
この中で特にVOC(揮発性有機溶剤)がインキを乾燥させる際に蒸発し大気に放出されることが問題視され、そこで環境にやさしいインキとして出てきたのが、VOCをできるだけ減らして大豆油、亜麻仁油、桐油、パーム油、ヤシ油、米ぬか油などの各種植物油に置換えた植物油インキです。
ちなみに一時話題を集めた「大豆油インキ」はこの植物油インキの範疇に含まれています。
そしてさらにVOCを1%未満に抑え、その代わりに植物油に置き換えたものがノンVOCインキと呼ばれるものです。
環境にやさしいUVインキ
しかしいくらVOCを減らしても上記のような「環境ホルモン」「重金属」の問題は解決されていません。
そこで脚光を浴びるのがUVインキです。
UVインキとはUV(紫外線)照射装置を備えた印刷機で使用するインキで、紫外線を当てることによって非常に短時間(0.2秒程度)で乾燥する特性があります。
このUVインキは乾燥のために溶剤の蒸発が必要ないのでほぼVOCを必要としないうえ、環境ホルモンも重金属も含まれませんので、非常に環境にやさしいインキということができます。
このUV印刷は生産性の向上や短納期化にも大きく貢献するため、印刷業界では機械設備もインキも通常のものよりは高価ではありますが、UV印刷機を導入する動きが進みつつます。
但し、UV印刷にもデメリットがあり、環境面で言えば、紙のリサイクルにおいて脱墨性が悪く(色が落ちにくい)、通常インキに比べ、脱墨のために水を多く使用しなければならないという欠点があるほか、通常インキに比べて色の再現性がやや劣り、特に鮮やかな色がくすみやすい傾向にあり、また用紙によっては印刷適性がよくない場合もあります。
ただこれらのデメリットも、インキメーカーの努力もあり、需要が増すにつれ徐々に解消されつつあります。
あと、問題はやはり価格です。
先にも述べたようにまず、印刷機の他にUV照射装置が必要な上、UVランプが消耗品でありかつ高価、その他UV対応の機材も他に比べて高価です。
そしてなによりUVインキもプロセスカラーで通常価格の倍、特色に至っては3〜数倍の値段になっています。
したがって、通常の印刷に比べるとどうしてもUV印刷は割高にはなってしまいます。
印刷インキの将来
現在、紙への商業印刷の主流は圧倒的に平版(オフセット)印刷ですが、インクジェット方式のデジタル商業印刷機の開発も進んでいます。
もちろん現在のオフセット印刷のシステムも非常にすぐれていて、またデジタル印刷も本格的な実用化にはまだまだたくさんの課題がありますが、活版印刷機がオフセット印刷機に置き換わってしまったように、近い将来には商業印刷でもインクジェット印刷機が大半を占める日が来るかもしれません。
ところでデジタル印刷化の環境問題へのメリットは、オフセット印刷における刷版がいらない、損紙も非常に少なく、必要なとき必要な分だけ印刷できるため無駄な用紙を消費しない、などと併せて、インクジェット方式の場合水性インキを使うことが挙げられます。
さらにはノンVOC水性インキの開発と実用化も進んでいるようですので、環境面からみてもデジタル印刷機にはアドバンテージはあります。
【参照文献サイト】
印刷インキ工業連合会
印刷の基礎知識