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印刷用語集

エコな印刷とは【第1回】製紙に関わる環境問題

SDGs=「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」という言葉を世間でよく耳にするようになりましたが、その目標の中には環境問題と深く関わる内容をもちろん含まれています。

SDGsアイコン
そして、我々印刷関連業界もまた、リサイクルペーパーの活用や大豆油などの植物性インキの使用など様々な取り組みを通して古くから環境問題には大きく関わってきました。
また昨今特に話題になっている廃棄プラスティックによる海洋汚染も印刷と深くリンクしています。
そこで、古くて新しい問題、「エコな印刷」とは、というテーマで考えていきたいと思います。

最初に印刷に関わる環境問題は次のように大きく分けることができると思います。

  • 紙の生産に関わる問題(リサイクル・素材など含む)
  • インキなど紙以外の材料に関わる問題
  • 印刷工場設備の問題(空気汚染・廃水など含む)
  • 発注側の問題(配送・廃棄など含む)

それでは、第1回目は紙の生産に関わる環境問題について考察したいと思います。

和紙と洋紙の製法の違いについて

日本で紙の生産を考える場合、まずコート紙や上質紙などの洋紙と和紙では分けて考える必要があります。

洋紙と和紙の違いは原料で、洋紙は針葉樹や広葉樹などの木材を元にしたパルプ材を中心に作られるのに対して、和紙の原料は、主にミツマタ(三椏)やガンピ(雁皮)、コウゾ(楮)などの植物です。
そしてパルプ材の元になる木材は成長に何十年もかかるのに対して、和紙の原料になる植物はかつては野生のものが採取されたり、農閑期に畑の周辺で栽培されていたりで毎年収穫できます。
また生産設備も洋紙メーカーが主に王子製紙や大王製紙、日本製紙など日本を代表する大企業が大規模な製紙工場で生産するのに対し、和紙メーカーはほとんどが地方の中小・零細企業や個人事業、その設備も機械漉きでも言葉は悪いかもしれませんが町工場レベルです。
そもそも手漉きの和紙は何百年も前の電気も機械もない時代から水と太陽と人の力で作られていたものですから、環境にとてもやさしい紙といえます。
和紙の手漉き(越前)
但し、現代では和紙の印刷適性は総じて低く、特にカラー印刷ではコート紙や上質紙に比べても発色が非常に落ちたり、そもそもカラー印刷機では印刷不可能な和紙も多々あります。
また現在は和紙の原料も輸入されることが多くなり、また和紙といってもパルプ材などを混入したのものやパルプ材から作られるもの(和紙と呼べるかは別として)も多くあります。

洋紙生産に伴う環境負荷は?

それでは逆に洋紙が環境に与える影響が大きいかというと、確かに洋紙を生産するには森林は伐採し、製造過程で大量の燃料や電気を使うことでCO2を排出し、水も大量に使用します。
しかし、近年の日本での原料消費量の内訳はパルプが約4割、古紙が6割で推移しており、古紙配合のいわゆる再生紙・リサイクルペーパーが大半を占め、印刷用のパルプ100%の紙はほとんどありません。
そのうえ、上記の日本の製紙メーカーはいずれも環境対策にも十分に力を入れていて、国産材は、製材残材など他に使い道のない木材や間伐された人工林低質材(針葉樹)、計画的に伐採された天然林低質材(広葉樹)が中心となっており、輸入材は、主に製紙用に植林された人工林低質材(広葉樹)が中心となっています。
例えば、森林への植林事業などの取り組みは以下の各製紙メーカーのウェブサイトでも知ることができます。

さらにFCS認証制度というものがあって、森林環境を守るために、「生態系に配慮した適切な管理をしている森林か」「適切に管理された森林から生産された木材を原材料として使用しているか」など持続可能な森林経営が行われているかを、世界的な厳しい基準で審査していく制度ですが、日本の各製紙メーカーも自社植林や取引先サプライヤーでこの森林認証を取得しています。
したがって少なくとも日本国内では現在需要が減少していることもあり、日本の影響で森林がどんどん伐採され失われていくことはないと思います。
しかし世界的にみれば紙の生産量は年5%ずつ増加していますので、世界の森林環境を守るためには、世界中での紙の消費を抑える努力は必ず必要です。

製紙原料としての古紙

逆に国内での問題としては、日本では古紙の回収システムが整備されており、利用率・回収率は世界でもトップクラスにあるのですが、中国や新興国が消費の増加によって古紙を国内より高値で買付していることによって結果的に、もうひとつの製紙の原料である古紙が不足しやすいことのほうが問題かもしれません。
また、以前環境意識の高まりからリサイクルペーパー・再生紙が脚光を浴びた時代、製紙メーカーによる古紙配合率偽装問題が起こりましたが、このときに配合率を高く偽装したメーカーの姿勢は当然非難されるべきではありましたが、当時グリーン購入法で定められた配合率を守ろうとすればどうしてもコスト高になってしまうことが原因の一つであり、その証拠にこの事件を契機に再生紙の含有率を誇示する風潮は一旦鳴りを潜めました。
このように、環境負荷の低い紙を仕入れようとすればその分価格は高くなる、この「経済と環境」の問題は紙に限らずあらゆる分野での課題です。

注目を集める非木材紙

一方で木材由来のパルプ材に頼らない洋紙というものもあって、竹やサトウキビの絞りかすなどを原料とした紙のことです。
非木材系の原料100%では印刷適性の高い洋紙は無理なので、パルプ材に10〜数10%の割合で配合された紙が一般的で価格も割高ではありますが、パルプ材の代用品として注目は集めています。
ちなみに非木材原料として一時ケナフという植物も注目されましたが、その後ケナフに関しては総合的に判断したとき実は環境にやさしくないという異論もあり、現在はあまり扱われていません。

そもそもケナフは製造過程で環境負荷が多い
  • ケナフの栽培には肥料が必要。化学肥料が使用されていれば、化石燃料の消費になる。
  • ケナフからセルロースを取り出すにはアルカリ溶液で煮る必要があるがその燃料には化石燃料が使用されている(であろう)
  • 上記溶液の処理が適切に行われず環境汚染の原因となっている可能性あり。
  • その他の非木材系の紙としては、石油由来の合成紙・ユポ紙や、石灰石から作られ、生産に水を必要としないストーンペーパーなどもあります。
    ユポ紙は最近になってバイオマス樹脂を配合した環境対応型が開発されたり、ストーンペーパーも最初は台湾で開発され、その後日本のスタートアップ企業が品質を進化させ現在LIMEXというブランドで流通が始まっていますが、こちらも価格が高いことと、印刷適性があまり高くはないこと、独自で回収してリサイクルを回す必要があること、などから一気に普及というわけには至っていません。

    製紙におけるCO2を抑えるには

    次にCO2を排出についてですが、製紙には前述の通り非常に大きなプラント設備が必要となり、工程上燃料として重油や石炭を燃やしていますので、当然CO2も排出しています。
    そこで製紙メーカーとしても設備の省エネルギー化を進めるとともに、カーボンオフセットも活用して、結果的にC02の削減に取り組んでいますが、こればっかりは、今のところは削減のためには紙の消費量を抑えるしかないと思います。

    まとめ

    それでは、環境にやさしいエコな印刷を心がける際に現状ではどのような紙を選べばよいのでしょうか?
    具体的には以下のような選択肢になると思います。

      ①古紙含有率の高い紙(=グリーン購入法適合紙など)
      森林認証を受けた紙
      ③非木材紙(または非木材を原料に含む紙)
      ④和紙(「楮・三椏・雁皮」から作ったもの)
      ⑤古紙リサイクル適正ランクの高い紙

    但し、①は受注生産品であることが多く、受注生産の場合は用紙ベースで数十万〜百万枚単位の発注量が必要になります。
    ②は、市中流通量が少なかったり、種類もあまり多くありません。
    また③や④は一般用紙にくらべて価格が高く、また和紙に関しては印刷適性が高くないものが多いのも実情です。
    ⑤で適正ランクが低くリサイクルの阻害となるものとしてセロハン/合成紙/カーボン紙/ノーカーボン紙/感熱紙/圧着紙などがあります。

    以上のことから、印刷用紙に関して環境にやさしく発注する現実的な心構えとしては、

    • できるだけ印刷枚数を少なく発注する
    • できるだけ古紙リサイクル適正ランクの高い紙を使う
    • 無駄のでない印刷サイズを心がける
    • 高コストと引き換えになることを受け入れる

    特に高コストは印刷や紙に限らず、環境やさしくするためにはどうしてもトレードオフの関係となってしまいますね。

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