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印刷用語集

エコな印刷とは【第3回】紙とインキ以外に関わる環境問題

エコな印刷とはというテーマでこれまで2回にわたって記事を書いてきました。

【第1回】紙に関わる環境問題
【第2回】インキに関わる環境問題

第3回目の今回は、紙とインキ以外に関わる環境問題についてすこし書いていきたいと思います。

紙とインキ以外で印刷業界において環境問題として考えられるのは

  • 印刷工場設備(電力・ガス・水)の問題
  • 印刷資材の問題
  • 製本など後工程での問題
  • 配送の問題
  • などがあげられます。

    オフセット印刷における水問題

    最初の「工場設備」の問題は、印刷に限らずいずれの製造業全般に当たるわけですが、特に水に関しては、オフセット印刷機の場合印刷しない部分に印刷インキが付着することを防ぐために「湿し水」といって刷版を湿らせる液体を使用します。
    オフセット印刷の原理としては、刷版と呼ばれるアルミの印刷版上で、紙にインキが付く部分は親油性をもたせ、インキがつかない部分は親水性をもたせます。いわゆる水と油の原理です。
    この「湿し水」は水道の水だけでというわけには行かず、エッチ液と呼ばれる樹脂(アラビアゴム)、溶リン酸・塩酸などの酸(有機・無機)とか、防腐剤、酸化防止剤などを含む溶剤と、IPA(イソプロピルアルコール)が併用して添加されています。

    このうちIPAはVOC(揮発性有機化合物)を含有しているうえ、引火性も高く、廃液も発生しますので、できるだけ使用を削減することが求められています。
    この「湿し水」を使わないのが水なし印刷、水なしオフセットと呼ばれるもので、「湿し水」がないので結果廃液も排出されず、また刷版の製造工程や洗浄工程でも現像処理の環境負荷も非常に低くなります。
    ただ、普通のオフセット印刷でもできるだけ「湿し水」を絞って少なくするほうが綺麗に印刷できるのですが、しかし水が少なすぎると今度は印刷面が汚れてしまい、その塩梅が職人の腕の見せどころです。
    ですので、水なしオフセット印刷もそう簡単にどこの印刷会社でもできるものではなく、専用の設備や資材、技術が必要となります。

    なお、水なしオフセット印刷に対応している印刷会社は基本的に一般社団法人日本WPA(日本水なし印刷協会)に入会していて、こちらから「バタフライマーク」と呼ばれる認証マークを交付されています。

    製版と環境負荷

    次に印刷用の版を作る製版における環境負荷の問題です。
    古くは活版印刷の時代、印刷版である活字の鋳造の原料に主に鉛が使われていたため、活版印刷の職人には鉛中毒検査が義務付けられていました。
    その後普及してきたオフセット印刷では、印刷用の版はPS版と呼ばれるアルミ板に感光材が塗布されてものを、写真製版フィルムと密着して転写・現像することによって作られていました。
    そして写真製版工程で大量のフィルムを使用し、最終的に製版フィルムの形で在版として保存してきました。
    それがデジタル技術の進展によりCTP(Computer To Plate)時代となり、組版レイアウトした版下データを直接刷版に転写できるようになったため、製版工程で一切フィルムを使用することがなくなり、在版としての保管もデータの形がほとんどとなりました。
    結果として、大量のフィルムが産廃物として廃棄されず、また現像液や定着液が廃液になることもなくなり、環境の面からみれば非常に大きな進展といえます。
    しかしCTPといえども現像工程は残ってしまっていすので、量は減りましたが依然現像液や定着液の廃液処理は残っています。

    デジタル印刷の環境メリット

    【第2回】の印刷インキの稿でも述べたように、現在商業印刷で主流のオフセット印刷の先に向けて、デジタル印刷の開発が進んでいます。
    デジタル印刷ではインキが環境にやさしいことのほかにもうひとつ環境負荷に大きなメリットがあります。
    それはデジタル印刷が物理的な版を必要としない点です。
    オフセット印刷でいえばPS版は、素材としてのアルミ板は都度廃棄しますし、製版工程で現像液や定着液を使い、これらも廃液として処分されていますが、デジタル印刷ではこれらの消費と廃棄がありません。
    もちろんデジタル印刷にも環境に負荷をかける要素はたくさんありますし、現状のオフセット印刷でも、現像液を極端に少なくしたり、使わないCTP装置も開発され稼働しています。
    しかし、トータルで判断すれば、デジタル印刷への移行は、概ねより環境にやさしい、エコな印刷といえるでしょう。

    まとめ

    3回にわたって「エコな印刷」について考察してきましたが、他にも配送や印刷後の加工の際に起こる環境問題などがあります。
    例えば身近なところでは、中綴じ製本というホッチキスで本を綴じたものは、漫画雑誌をはじめ、パンフレットなどでもよく見かけます。
    このホッチキスも古紙回収され、再生紙として再利用するとき他の異物とともに除去する工程が必要となります。
    また、伝票などでよく使われているノーカーボン紙や、レジでのレシートやFAXで今でも一部使われている感熱紙なども再生紙として回収することができません。

    そんな現状ではありますが、エコな印刷(紙製品)の将来的な方向性としては、

  • デジタル化の進展によるさらなるペーパーレス
  • デジタル印刷の普及による有害物質の使用減少や、資材消費の軽減
  • パッケージ素材のプラスティックから紙素材への回帰?
  • などが考えられると思います。
    ペーパーレスについては、本、新聞、雑誌、伝票、ポスターやチラシ・パンフレットなどの販促物などのデジタル化が進み、結果として紙と印刷の消費は減っていくでしょう。
    そして印刷物の制作もデジタル印刷への移行によってより環境にはやさしくなっていくと思われます。
    ただ、需要は今までと比べて減ってしまいますので、印刷のコストは、現在の状況を底として今後だんだん上がっていく可能性があります。
    また、職人の手に依存した印刷技術、こだわりの製本・加工技術とそれを支えるデザインは(木版印刷や活版印刷が失われていくように)失われていくのかもしれません。
    最後に、今盛んに問題提起されているプラスティック素材は、今一度紙素材への回帰が起こるかもしれませんが、その場合は非木材系のなど持続性のある原料や、リサイクル性の高くて安価な製品が開発されなければ普及は難しいでしょう。

    いずれにしても、生産者も消費者もどんどん環境問題に対する意識が高くなっていかなくては「エコな印刷」の実現に対するハードルは決して低くなることはありません。

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